2012年9月26日水曜日

温かさ、文化性、多様性、個性へのあこがれ

現代の工業化は文明の進歩や生活の利便性をもたらしました。しかし同時にその反面として変化の激しさに人々が漠然とした不安を抱くようになり、しかも人間関係の「冷たさ」がこの不安を増幅していると言えるでしょう。さらに人々が「孤独」に陥ってゆく背景には消費財の規格化や標準化のもたらす「昧気なさ」や「単純さと画一化」が職場や地域に広がってきたことも無視できません。

不安から脱出し、何処を向いても同じような規格品の溢れる世界から逃れるために、人々が「温かさ」「文化性」「多様性と個性」を強く求めるようになったことも事実でしょう。これは日本だけでなくて一九六〇年後半から七〇年代半ばの期間に各国に共通しておこった問題でした。例えばアメリカでは、この時期に情報技術やバイオ技術が相ついで導入され産業の再編成が大規模に進行し旧来の産業が不況に陥って大量の失業者が発生し、不安が国民のあいだにひろがった時期にあたります。

他方、自動車や家電製品に象徴される耐久消費財が普及するとクルマによる人の移動は容易になり、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、クーラーなどの普及は住居内の生活空間にかつてないほどの便利さをもたらしました。

しかし、同時に日本国中どこにいってもクルマの洪水をつくりだし、駅前の広場はどの駅を降りてもほとんど変らない画一化された印象のものとなり、都市は白いコンクリートのジャングルに変貌し庶民が生活するマンションやアパートも規格品となっていて、およそ多様性とか個性という人間の本来の姿とは縁の遠い空間が広がっていったといえるでしょう。規格品をカネで買って利便さを手にしたかわりに人間関係は希薄となって「ココロの通うコミュニケーション」は困難となり職場の人間関係もドライなものとなりました。

また新技術の導入によって新しい技能を身につけた女性が大量に職場に進出し雇用均等法が普及して男女の平等に関心が高まり、給与生活者層に女性が参加して各種の消費財市場を開発してゆきました。女性の装身具や衣料品、それに住居におけるデザインや調度品の選択は男性にくらべて文化的な要素を強くもっていて供給者側の製品やサービスに大きな影響を与えました。