2013年12月25日水曜日

米ソは共通の利益をもつ

イーイ戦争の関連では、米国もサウジアラビアなど君主制産油国からの求めに応じ、高価な兵器を売り込んでいるから、中東の混乱を好機に転じている点でソ連と同じである。このことは別項‐「水平線上戦略」でも詳述してある。石油という面で、ソ連と中東のかかわりは微妙である。産油国には、OPECに加入している十三ヵ国のほかに、OPECに加入していない国ぐにがある。ソ連は有力な非OPEC諸国のひとつだが、世界の石油市場では非OPEC諸国の役割が大きくなっている。世界の石油市場を占める割合をみると、一九八一年を境に、非OPEC諸国がOPEC諸国を上回ったのである。

そこから、OPEC諸国と非OPEC諸国の協力の可能性が開けてくる。一九八六年八月と十月、OPEC総会は価格の低落を食いとめるため、加盟国に生産量を割り当て、その厳守を約束しあった。このとき、注目すべきことに、OPECはソ連、英国、米国といった非OPEC産油国にも協力を呼びかけていることだ。OPECが生産量を制限しても、非OPEC諸国がここぞとばかり生産量を増やしたのでは、価格は下がってしまう。ここに、共産主義のソ連と、親米保守のサウジアラビアなどが、石油をめぐって意思を交流させねばならない状況が出てくるわけである。米国としても、イスラエルかわいさにアラブの力の源泉である石油の価格を引き下げればよいというものでもない。アラブの石油が安くなれば、米国は国内で石油を掘り出すよりも輸入した方が安あがりになる。

実際、一九八六年に入って石油価格が急落し始めると、米国内のコストの高い中小石油会社は生産停止に追い込まれたのである。米国とアラブ産油国は、安全保障だけでなく、石油の面でもアンビバレンスの関係にあるといえる。ソ連とアラブ産油国との関係はすでに好転の一途にある。石油情勢の混乱がソ連にひとつの好機をもたらしたといえるだろう。ソ連の南部国境の外側に、親ソあるいは少なくとも中立的な空気が広まることこそ、ソ連の最も好むところであるからだ。

以上のように、グレーゾーンの中東で力を張り合ってきた米ソも、共通の利益をもっており、しばしば協力している。まず、すでにふれたように、中東の混乱で米ソとも武器を売り込むなどして利益を得ている。米国の軍備管理軍縮局が公表している『世界軍事支出と武器移転』(一九八五年版)によると、一九八三年の全世界の武器輸入の四二・四パーセントは中東であり、武器輸出の二八・四パーセントは米国、二六・ニパーセントはソ連によってなされている。だが、中東向けの米ソの武器輸出には限界があり、そこに第二の共通の利益が生まれてくる。

つまり、米ソはともに全面対決を避けるという暗黙の了解である。イーイ戦争や第四次中東戦争に関連して、米ソはホットラインを使って協議してきたといわれるが、相互に誤解を与えないように、また局地紛争としてコントロールできないほど拡大しないように、という配慮からだろう。前述のように、米国がリビアを爆撃したときも、軍事行動の意図と限界をソ連にわかるようにしていた気配が強い。第三の共通の利益は、中東の国ぐにに核兵器をもたせないことである。イスラエルの核兵器保有説がしばしば流れてくるが、それについては「情報戦争」の項でふれておいた。