2015年5月21日木曜日

医学的な命名法

医学的な命名法では、個人の症状から名前がつけられることが多いからである。たとえば流行性髄膜炎という病気があるが、この場合、病原体は呼吸器感染症としての感染環をもっている。しかし、この病原体によって起こされる最も重篤な病型が髄膜炎であるので、このような名称がつけられている。ウイルスによる伝染病では、脊髄性小児マヒの例がある。病原体であるポリオウイルスは、消化器感染症としての感染環をもっている。ポリオウイルスは通常、口から入り、消化管で増殖して糞便とともに排出される。ところがこの過程で、ウイルスがおそらく血液を経由して、脊髄にある、筋肉を動かすための神経細胞に感染してしまい、この神経細胞がウイルスの増殖によって破壊されてしまうことがある。

その結果、筋肉が麻蝉してしまうことになるが、神経細胞の中でいくら活発に増殖しても、このポリオウイルスには次の宿主に感染するための出口がない。このように医学的な重要さと、ウイルス自身にとっての生物学的意義とが食い違っている場合も多い。この意味で、感染環が成立するような感染を本来の感染というべきだろう。流行性髄膜炎菌の場合では、咽頭粘膜における浅い潰瘍をつくる感染がそれに相当する。病原体である髄膜炎菌がこの病巣から血液の中に入り、髄膜に到達すると髄膜炎が起きる。しかし髄膜のところで増殖した髄膜炎菌には、次の新しい宿主に感染する機会がない。

脊髄性小児麻庫も、原因病原体であるポリオウイルスの腸管の粘膜細胞における感染が、子孫を新しい宿主生体に感染させることができるという意味で本来の感染ということになる。要するに、ここでいう「本来の」というのは、生物学的に意味があるということを意味する。同様に本来の宿主という言葉も、ある病原体が感染環を成立できる生物種という意味になる。