2015年6月16日火曜日

アメリカにおける地域別の経済活動状況

ヨーロッパの統合が等式のプラス部分だとすると、移民の防止策はマイナス部分ということになる。東欧の人々は、いつまでも国境の内側にとどまって西欧諸国の一○分の一の収入で満足してはいないだろう。東欧諸国に西欧市場における特恵待遇を与えて経済成長を援助してやらない限り、東欧の人口が西側に流れこんでくるのは目に見えている。また、アメリカがメキシコ問題を抱えているように、ヨーロッパは北アフリカ問題を抱えている。

何百万人もの北アフリカ住民が南ヨーロッパへ流入してくるのを避けるためには、安価な労働力の豊富な北アフリカ地域をヨーロッパ企業の海外生産地として育てていく必要があるだろう。ただし、EFTAや東欧や北アフリカの国々にEC準加盟国の地位を与えたり市場へのアクセスを有利にしたりすれば、貿易ブロックを形成することになる。ヨーロッパやヨーロッパに近い国々だけが優遇されることになる。

ヨーロヅパの統合は進めたい。しかし移民の流入は防ぎたい、というECの意図を考えあわせると、ニ一世紀にむけて彼らが提案するのは、いわゆる「準貿易ブロック」と管理貿易を組み合わせた内容になると思われる。つまり、ブロック内では貿易は現在よりもっと自由になるか、ブロック間の貿易は政府が管理する、というシステムだ。

現在ブリュッセルで進行中の交渉を現実的に分析すれば、この方向は明らかだ。歴史的に見ても、経済同盟を存続させるためにはメンバーの求心力を維持する接着剤として部外者を締め出しておく必要があるのだ。アメリカ新大陸にできた共同市場も、市場成立後一〇〇年を経てもまだ閉鎖性が強く、外からのアクセスを拒んでいた。事実、この問題は一八六一年の南北戦争勃発の重要な一因になった。イギリスから安価な製品を輸入しようとする南部とアメリカの市場を保護しようとする北部とが対立したのである。

政治的に考えても、やはり同じ結論にたどりつく。ヨーロッパは一九九三年になれば猫も杓子も金が儲かるかのように浮かれているか、底深い部分ではやはり統合後の変化に危惧を抱いているらしい。企業も市町村も、自分たちが統合後のECで経済的勝者になれるかどうか専門家に分析を依頼している。アメリカ市場におけるマーケットーシェアを参考に類推してみると、統合後の欧州市場は大半が少数の大企業に持っていかれてしまい、はとんどの企業は残念ながら市場から消え去ることになりそうだ。専門家の分析が明るい将来を描いてくれるのは、ほんのひと握りの企業だけだ。

同じようにアメリカにおける地域別の経済活動状況を参考に分析してみると、ヨーロッパでも統合の結果かえって経済的に落ち込む地域が出てきそうだ。アメリカでは、いくつかの州で人口の流出が続き、貧しい州では一人あたりの所得が豊かな州の三分の一しかない。アメリカにある三〇〇〇の郡のうち、三分の二は人口が減っている。アイルランドなどは、ヨーロッパのノーズーダコタになるかもしれない。市場が統合されて人の移動か自由になれば、労働力は当然経済活動がいちばん活発な地域(ドイツ)へ集中する。反対に、失業者があふれている地域(アイルランド)へ企業や工場か移って来ることは、まずありえない。