2015年10月16日金曜日

経営資源のレバレッジ

B社はA社よりもずっと小規模で、手にする経営資源もはるかに少ない。同社は、社員も少なく予算もささやかで、貧弱な設備とA社に比べればわずかの研究開発費でやりくりするしかない。しかし、B社には、そんな貧弱な経営資源基盤とは裏腹に壮大な野心がある。B社はA社にどんなに笑われようとも、A社の業界リーダーの地位打倒を合言葉にして、四方八方手を尽くしている。これを達成するには、A社以上に急成長を遂げ、より良い製品をより多く開発し、最終的に世界中の主要市場に進出し、世界にまたがるブランド販売権を確立しなければならないことをB社の管理職は知っている。さしずめB社は、経営資源には乏しいが野心に満ちあふれるという、A社とは正反対のイメージである。

A社の経営資源と野心との間にあるギャップはスラック(弛緩)である。一方、B社の経営資源と野心との間のギャップは我々の言うストレッチである。この点がわかれば、両社のとる競争戦略へのアプローチは根本的に異なり、それぞれの経営資源のレバレッジに当たっても当然、独創性の違いが出てくるだろう。

確かに、A社は戦略的な動きをしやすい。新たに生産能力を増強してB社を引き離したり、研究開発費により多くを投じたり、積極的な価格設定でマーケットシェアを奪い、最大級の販売要員を配置したりできるわけである。実際、経営資源がフルに活用されていないので、A社がB社と競争するうえで考えつく方法はまさにこういったものである。

A社の管理職は、競争戦略で、第一次世界大戦の塹壕戦のアプローチをとろうとする。つまり、「敵方の頭数以上に弾丸を持て」である。A社は競争を戦い抜くために、どんなに非効率的だろうと敵を経営資源の重みそのもので圧倒しようというアプローチをとる。

B社にはそんな余裕はない。裕福なライバルを前にして、B社は大規模な軍隊の規律と自己満足につけ込んで足をすくおうとする、ゲリラ戦術をとらざるを得ない。敵を力ずくではなくて、策略で倒さなければならない。これは北ベトナム軍が米軍の勢力に直面して悟った極めて明快な真実であった。以下の話は、ハノイ訪間中に年老いたベトナム人将軍に延々と執拗に問いかける機会に恵まれた、ある西側の老将軍が語ったものである。

米軍の橋梁爆撃策にもかかわらず、どうやって北ベトナム軍はいともたやすく兵隊と資材を渡河させることができたのだろうか。水面をわずかに下回るところに橋を架け、偵察機には発見できないが、人や車両は通れるようにしたのである。資源のありあまるアメリカ陸軍だったならば、北ベトナム軍が直面したような挑戦にどう対応しただろうかときっと考えてしまうだろう。