諸外国と比べたとき、日本の小学校の教育水準はかなり高い。読み書きそろばんレベルを教わる課程は、真面目な日本人に合っているのかもしれない。中学もけっこう高い。だが、高校、大学、大学院と上に行けば行くほど、中身の密度が希薄化していくのはなぜなのか。しかも、教える内容が間違っている。もっと社会に出て役に立つ知識を身につけなければならない。もちろん、才能に恵まれた子どもたちは、レベルの高い高校からレベルの高い大学・大学院に進学して、ハイレペルの研究環境で切磋琢磨すればいい。ノーベル賞を狙いますという人たちは一定数必要なので、トップクラスのアカデミックスクールは、社会全体で残しておかなければいけない。いや、そういったトップ校は、ひたすら学問の世界のオリンピック金メダルを目指し、ハーバード大やスタンフォード大、オックスフォード大やケンブリッジ大にガチンコで勝負を挑んでもらわないと困る。
だが、いまの教育システムでは、スポーツにたとえれば、オリンピックで金メダルを目指せる才能の人と、趣味のジョギングが精一杯の人を、同じ仕組みで教えようとしている。ここに大きな無理がある。そんなことは本来あり得ない。それでは、両方ともダメになってしまうのだ。実際、ほとんどの大学で研究者を目指す人はごく一握りで、卒業生の大半が就職していくわけだから、そういう大学がアカデミックスクールを気取っても、まったく意味がない。特に文系学部はそうである。大学「教授」といっても、社会人として生きていく術を学生たちに「教え」「授けて」いる先生はほとんどいないのが現実だ。
だいたい社会人として娑婆で暮らしたことがない人にその術を教える能力はない。こういうことを言うと、大学教授の本分は研究、真理探究であって、下世話な職業訓練ではないという手合いが出てくる。しかし、研究のプロを自任しているのかもしれないが、グローバルレベルで競争力のある研究をしている人がはたしてどれだけいるか。研究の世界こそ、きわめて冷酷冷徹に高い能力のみが求められるのであって、アカデミックの世界で本当に戦える人材は一割もいないのではないか。残りの九割は、残念ながら、アカデミックとは無関係。だから、黙って職業訓練能力を磨くことに徹すればいいのだ。
その意味で、大半の大学教員のキャリアパス、人材要件は、大幅に書き換える必要がある。社会人として、企業人として、生きていく基本作法、スキルを自分自身がちゃんと身につけているか、そしてそれを教えられるか。そういった能力を持っている人は、会社の中にこそたくさんいる。そう、中高サラリーマンを大量に大学教員として採用すればいい。そうすれば企業の人件費負担は軽くなるし、社内の人口逆ピラミッド構造問題、いわゆる「上司高齢化問題」も解消して新卒学生への求人も増えるだろう。既存の大学教員の失業は増えるかもしれないが、博士課程を卒業できるほどのインテリエリートの失業問題まで国家や社会が心配する必要はない。
そもそもビジネススクール、ロースクールは高等職業訓練校明治期に開校した多くの大学、たとえば早稲田大学は東京専門学校、明治大学は明治法律学校、中央大学は英吉利法律学校として始まっている。これらの学校は、いまで言う専門学校、要するに職業訓練校なわけで、一部の上位大学を除いて、その時代に戻ればいいのである。研究者を輩出するアカデミックスクールは、日本全体で一〇、多くとも二〇大学もあれば十分ではないか。米国では、ロースクール、ビジネススクール、メディカルスクールというのは、完全に職業訓練校になっている。天下のハーバードービジネススクール、ハーバードーロースクールといえども、ただの「高等職業訓練校」なのである。
2014年9月16日火曜日
租税特別措置の動向
自民党税調の影響力が高まった時代以降の租税特別措置の動きを、簡単に振り返っておこう。年度を追い事項と減免額を述べるのは、あまりにも煩雑となるので、主たる動きだけをしめしておきたい。さて、先にも述べた上うに一九六〇年代に租税特別措置の力点は、企業の輸出競争力や技術開発などを目的とした輸出振興税制におかれていたが、一九七〇年代初頭のニクソンーショックによる円の切り上げ以降、それらは姿を消していく。代わって七〇年代の企業にたいする租税特別措置の力点は、当時の公害環境問題の深刻化を反映して、公害防止施設についての特別償却制度、公害防止事業費負担金の一部損金算入、騒音規制地域外への工場移転にともなう買換え特例などをはじめとした、公害関連税制におかれるようになった。
もちろん、こうした租税特別措置には、PPP(汚染者負担原則)に反するとの批判が当時の野党や公害関係住民運動団体から生じた。それに一面の真理が含まれているのは事実である。ただ、このような方向転換は、経済団体が世論の批判に耐えかねて政治に自己負担の救済を求めるとともに、政治の側がそれを集票機能の拡充に利用した結果である。同時に政策論としてみれば、環境基準の規制の強化をはかるだけではなく、その実現にむけて何らかのインセンティブを対象に与えなくてはならない。公害防止の補助金支出とならんで、「隠れた補助金」の支出によって、インセンティブの多元化をはかると同時に、一般歳出を抑制しようとした予算官僚制の意図を読み取れるであろう。
この公害関連の租税特別措置に加えて七〇年代に顕著となったのは、当時の都市・住宅問題への対応としての住宅譲渡所得の特別控除、土地譲渡所得にたいする特例の導入などであるとともに、特定鉄道設備の特別償却、地中送配線設備の特別償却、特定ガス導管工事の償却準備金制度などであった。第一次オイルーショックに加えて第二次オイルーショックを経験する七〇年代後半から八〇年代にかけて目立つのは、エネルギー資源設備についての特別措置である。一九七五年度にエネルギー資源有効利用設備の特別償却が導入されるが、その後も省エネルギー設備の特別償却、エネルギー利用効率化投資促進措置などが次々と設けられ、同時に対象を拡張していった。
そして、八〇年代中盤から租税特別措置を彩るのは、「民間活力」導入に関する租税特別措置である。まず八四年度には、先端技術産業が「高度技術工業集積地域」において新増設した設備にたいする特別償却制度が導入された。これに続けて、八六年度になると東京湾横断道路株式会社の発行する割引債についての分離課税、民間活力によって整備される特定施設にたいする特別償却制度、エネルギー基盤高度化施設にたいする特別償却制度などが導入されていくことになる(この動向について詳しくは拙著『財政破綻と税制改革』岩波書店、一九八九年を参照されたい)。
もちろん、こうした租税特別措置には、PPP(汚染者負担原則)に反するとの批判が当時の野党や公害関係住民運動団体から生じた。それに一面の真理が含まれているのは事実である。ただ、このような方向転換は、経済団体が世論の批判に耐えかねて政治に自己負担の救済を求めるとともに、政治の側がそれを集票機能の拡充に利用した結果である。同時に政策論としてみれば、環境基準の規制の強化をはかるだけではなく、その実現にむけて何らかのインセンティブを対象に与えなくてはならない。公害防止の補助金支出とならんで、「隠れた補助金」の支出によって、インセンティブの多元化をはかると同時に、一般歳出を抑制しようとした予算官僚制の意図を読み取れるであろう。
この公害関連の租税特別措置に加えて七〇年代に顕著となったのは、当時の都市・住宅問題への対応としての住宅譲渡所得の特別控除、土地譲渡所得にたいする特例の導入などであるとともに、特定鉄道設備の特別償却、地中送配線設備の特別償却、特定ガス導管工事の償却準備金制度などであった。第一次オイルーショックに加えて第二次オイルーショックを経験する七〇年代後半から八〇年代にかけて目立つのは、エネルギー資源設備についての特別措置である。一九七五年度にエネルギー資源有効利用設備の特別償却が導入されるが、その後も省エネルギー設備の特別償却、エネルギー利用効率化投資促進措置などが次々と設けられ、同時に対象を拡張していった。
そして、八〇年代中盤から租税特別措置を彩るのは、「民間活力」導入に関する租税特別措置である。まず八四年度には、先端技術産業が「高度技術工業集積地域」において新増設した設備にたいする特別償却制度が導入された。これに続けて、八六年度になると東京湾横断道路株式会社の発行する割引債についての分離課税、民間活力によって整備される特定施設にたいする特別償却制度、エネルギー基盤高度化施設にたいする特別償却制度などが導入されていくことになる(この動向について詳しくは拙著『財政破綻と税制改革』岩波書店、一九八九年を参照されたい)。
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