2013年7月9日火曜日

ユーロ諸国がギリシヤ国債を六割近く保有する

金融取引は借り手と貸し手から成り立つ。借り手であるギリシヤが火の車であることがはっきりしたことで、貸し手である金融機関や機関投資家も浮足立ってきた。ここでギリシヤの対外借り入れの状況を整理してみよう。ギリシヤの国債発行残高は三千百億ユーロ、そのうち、外国人投資家の保有分は二千百三十億ユーロにのぼる、とドイツ銀行は推計している。外国勢のうち、フランスが二四・九%、ドイツは一四・二%。同じユーロを使い為替リスクのないユーロ圏諸国が五八・〇%と六割近くを占めると、英誌『エコノミスト』は推計している。

ギリシャは国債以外の形でも借金をしている。そしてポルトガルやスペインなど南欧諸国の対外債務も多い。ユーロのキャリー・トレードが積み上がった結果、国際決済銀行(BIS)。によれば、これら三国の外国金融機関からの借り入れ残高は、合わせて一兆千九百三十億ユーロと一一〇円換算で約百三十一兆円にのぼる。うちドイツからの分は二千二百六十億ユーロと全体の二割弱。フランスからの分か二千百億ユーロと続き、ユーロ圏全体からの借り入れは合わせて七千六百二十億ユーロと、全体の六一・四%に達している。そして借り入れは金融機関からばかりでない。保険、年金などによる投資分も含めた対外借り入れは、ギリシャ、ポルトガル、スペインの三カ国で二兆千億ユーロと二百三十一兆円にのぼると、大手英銀のRBSは推計している。

各国ごとの残高とGDP比は、ギリシャが三千三百八十億ユーロでGDPの一四二%、ポルトガルが三千三百三十億ユーロで二〇〇%、スペインが一兆五千億ユーロで一四二%となっている。リーマンーショック後に米金融機関のレバレッジ(外部負債)依存経営が批判されたが、何のことはない。ユーロ圏内でカネ余りによるバブルが膨らみ、PIIGS諸国の経済は高レバレッジによって支えられていたのだ。同じ通貨ユーロを使い為替リスクがないことが、安易なレバレッジ拡大を可能にした。これらの借り手の危機は貸し手であるフランスやドイツの金融機関や投資家に跳ね返る。

しかも欧州の貸し手と借り手は蜘蛛の巣のように絡み合っている。今村卓・丸紅米国会社ワシントン事務所長は「これら三力国の危機になれば、ユーロ圏の金融システムを揺るがすシステミックリスクが発生する恐れがある」と強調していた。金融市場は浮足立った。市場はギリシャのデフォルト(債務不履行)を視野に収め始めた。CDSの保証料からはじいた、国債のデフォルト確率は五年内に約五〇%に達し、一〇年五月の時点でベネズエラやアルゼンチンをも上回った。投資家に対する応分の負担も取りざたされだした。大和証券キャピタルーマーケッツ金融市場調査部の中川隆氏は当時、「投資家の任意による債務交換」の可能性を指摘していた。○三年にウルグアイは①元本は削減しない②償還期限を大幅延長する③その代償として表面利率を引き上げるといった手法で、既発債と新発債の交換に成功し、元利払いの停止を免れた。金融市場がそうした可能性を、ギリシャについて織り込みだしたのである。

ユーロ圏を揺さぶる大問題に対するドイツとフランスの反応は遅すぎる。市場の苛立ちは募った。追い詰められたあげく、一〇年五月二日にEuとIMFはギリシヤ支援に合意した。一〇年から二一年にかけて総額千百億ユー一口の金融支援を実施する。ギリシヤ政府は総額三百億ユーロの追加的な財政赤字削減を実施するというものだ。ギリシヤのGDP二千三百四十七億ユーロ、公的債務残高二千七百三十二億ユーロと比較して、千百億ユーロの金融支援はべら棒に巨額である。小さすぎて遅すぎる(too little toolate)救済を重ねた結果、べら棒な金額が必要になるのは、日本の不良債権処理でもお馴染みの構図だ。問題は金融支援の見返りとしてギリシヤに求めたスパルタ策である。